梨木香歩「不思議な羅針盤」感想
梨木香歩さんの小説では「家守綺譚」や「村田エフェンディ滞土録」あたりが好きなんだけど、これは梨木さんのエッセイ集。
この人の小説は草木やら鳥獣やら、自然への細やかな目線がとても気に入っている。
このエッセイ集でも梨木さんのそういう部分への優しい眼差しとか、そこから感じ取ったものを人間関係へ敷衍していくところが見えて、読んでいると暖かな気持ちになると感じる。
中でも特に第9編『「スケール」を小さくする』の中の一節、「世界で起こっていることに関心をもつことは大切だけれど、そこに等身大の痛みを共有するための想像力を涸らさないために、私たちは私たちの「スケールをもっと小さく」する必要があるのではないだろうか」という部分は心に刺さった。
インターネットの発達で自分たちの得られる世界の情報は広がり続けているけど、それらを健全に感じ取るためにはもっと自分の身の回りに気を配り、心に留めていくことが大切なんだってことだろう。
米澤穂信「さよなら妖精」でも、山中の墓地へと向かう山道で江戸時代の墓石を見つけた主人公が、それに似たことを考えている場面があったな。
その時も少し気をつけないといけないなって思ったはずなのに、ついつい忘れてしまう。
そういうときは「大森の葱」と呟いて、この気づきを忘れないようにしないといけないなあと思う。
そういえばこの本は祖父母宅へ行く新幹線や電車の中で読んでたんだけど、なんか電車の中で本を読むと家の中で読むのとは受ける印象や読み方が違ってくるような気がする。
同じ本でも心への伝わり方が違うというか、響き方に環境によっての差異があるというか。
円城塔「道化師の蝶」にあった「飛行機の中で読むに限る」本とかも、満更でもないかもしれない。