恒川光太郎「月夜の島渡り」感想
沖縄を舞台にした七つの怪異譚を収録した短編集。
どれもこれも、自分たちの日常のすぐそばに不思議な世界へ入り口が開けているような感覚にさせられる話ばかり。
胡弓の音色に呼び寄せられる死者たちの声、無数の靴が木に吊るされた怪人の家、パーラーで働く異様な女。
どれもこれも、次第に自分たちの世界に何者かが忍び寄ってくるような、そんな気分になる。
作者の恒川光太郎の作品は結構昔から読んでいて、どれもこれも不思議な雰囲気が気に入っている。
ホラー寄りではあるが派手な幽霊の祟りだとか殺人鬼だとか怪物が出てくるわけでもない、じんわりと怖さや不思議さを感じさせてくれる語り口がうまい。
今までで一番のお気に入りは「南の子どもが夜行くところ」だったが、この作品はそれに匹敵するくらい好きかもしれない。
どことなく、例えばこの作品では沖縄、「南の子どもが夜行くところ」ではどこか南の島、というように今自分が居る世界とは少し違った場所が舞台になっている方が好きなのかもしれない。
本当にそういう話があってもおかしくないと思えるのかも。
沖縄って実際にはどうなんだろうかわからないが、怪異譚の舞台にするにはうってつけな場所かもしれないという気がする。
すぐそこに怪しい人物が住んでいても、霊能者が居ても、得体のしれない魔物が居るという噂があってもすんなり納得してしまう空気があるような。
沖縄の人に言ったら心外だと怒られるかもしれないけど。