樋口有介「不良少女」感想
これは今日、祖父母宅から帰る途中で読んだ。
樋口有介は色々と読んだけど、その多くは思春期の少年が同級生の女の子の死について調べるパターンと、ハードボイルドな中年男が女性の死の謎について調べるパターンに大別される。
最近では女性が主人公のシリーズも書いているけど(「猿の悲しみ」とかの風町サエシリーズ)。
とにかくすべての作品に共通するのは出てくる女性が美人ばっかり。
個人的には美人は大好きなのでどんどん出してくれと思う。
作品はどれもこれもトリック的な部分よりは人間関係の綾に焦点を当てていて、そこが内省的で韜晦ばかりの主人公の語り口とマッチして独特の雰囲気になっている。
村上春樹小説の主人公みたいなやつが事件を解決する、って言ったら樋口有介に怒られるかもしれないけどだいたいあってる。
あと気に入っているのが作中にある情景の描写で、とても瑞々しく綺麗に書かれていて、目に浮かぶようである。
この作品は、フリーライターで私立探偵のアルバイトも金欠時には引き受ける柚月草平シリーズの連作短編集である。
この柚月草平という人物、女たらしで酒飲みで妻と子供には逃げられて元上司と不倫しているとんでもない男だが、どうにも憎めない、魅力にあふれた男なのだ。
男性の読者はこんなおっさんになりたいって思うんじゃないだろうか。
ちなみに自分は思ってる。
これには柚月草平が引き受けたアルバイトの顛末を記した「秋の手紙」「薔薇虫」「不良少女」「スペインの海」の四編が収録されている。
どれもこれも人生の苦みとやるせなさに充ち溢れていて、ついでにおっさんの魅力と美人の魅力にも充ち溢れている。
人生ってのはどうにもうまくいかないもんだけど、それでもどうにか生きていかなきゃいけないよなあ、という不思議な感慨に浸れること請け合いだ。
個人的にはやるせなさに顔をしかめたくなるような「スペインの海」が気に入った。
これは契約彼女とでも言うべき仕事(本人は「正当なエスコート業」と言い、実際にプロフェッショナルとしての誠意や熱意も持ち合わせているのだが)を行う遠野多佳子という女性が、ゲイバーで出会った柚月草平に客にまつわるトラブルの解決を依頼するという話である。
これだけでも十分にきな臭い話だが、結末もその予感に違わず苦々しい。
この登場人物たちは、こうなるしかなかったのかなあ。
ある意味報いを受けたと言えばその通りなのかもしれないが、男と女というのはままならない。
微かな希望が見える表題作「不良少女」も好きだけどね!
ハードボイルドとか、人間関係(男女関係?)の難しさ的な話が好きならぜひおすすめ。